神社仏閣の銅葺き屋根や銅像の周辺に群生するコケ植物、ホンモンジゴケ(本門寺苔)、自然環境の銅汚染と浄化、とは(2009.6.24)
欧米では、銅像の近くや大聖堂の銅葺き屋根の下に、特異的に群生することから、銅ゴケ(Copper Moss、センボンゴケ科、学名はScopelophila cataractae(Mitt.)Bross)と呼ばれるコケ植物がよく知られています。
日本には、約1500種のコケ植物が生育していると言われていますが、その中に銅像や銅葺き屋根の神社や仏閣付近の土壌の銅汚染地域、別子、足尾のほか各地の銅鉱山などに、濃緑色の群落をなして特異的に生育しているホンモンジゴケがよく見られます。これらは、野口彰氏(熊本大学)の世界的な比較研究より、欧米の銅ゴケと同じ種であることが確認されています。
日本における銅ゴケについては、1910年(明治43年)、桜井久一氏が、東京都大田(台東)区の日蓮宗大本山の一つである池上本門寺(いけがみほんもんじ)の境内で初めて発見し、1934年(昭和9年)に新種として、ホンモンジゴケの和名(センボンゴケ科、学名はMerceyopsis tokioensis Reim.et Sak)を与え、東京植物学雑誌に発表しました。
池上本門寺(五重塔、東京、ホンモンジゴケ、濃緑色、五重塔下の石段の壁) 本門寺(ホームページ、池上、大田区、東京): http://honmonji.jp/01what/01yurai/yurai.html. 五重塔(心柱の不思議);http://pagoda.sakuraweb.com/pago11.htm.
(解説) 神社、仏閣の銅葺き屋根や銅像(赤銅色の金属銅が錆びて、緑青、塩基性炭酸銅を生じたもの)は、酸性雨(pH<5.6の雨)により溶解し、周辺の土壌が銅で汚染されています。そこの土の中には多量の銅があり、有毒なので、普通のコケは全く生えませんが、ホンモンジゴケは、どうゆうわけか群落をなし、異常な植生を示します。
このコケは、特別に銅をすき好むとか、必要とするのではなく、多量の銅があっても順応し、生育できる耐性を持っていると考えられています。ある場合には、組織中に乾燥重量にして1~2%にも達する銅を集積しており、普通の植物に含まれてる銅の量が10ppm(百万分率)程度なので、その1000~2000倍もの高い値です。
このコケの体内(組織中)では、銅は主として細胞壁周辺に表皮側に行くほど多く分布していました。また、佐竹研一氏より、細胞壁内の銅の化学形として、銅が無機化合物(硫化物など)として存在するよりも、有機物として結合(メタロチオネイン錯体、ペクチン錯体など)して分布している可能性が高いことが、示唆されています。
ところで、兼六園の近くの石浦神社の社務所の銅葺き屋根を、酸性の雨水や降雪が溶かし、銅による土壌汚染が起きています。銅葺き屋根(緑青)から落ちてくる雨水を調べたところ、pH4.7~pH4.9で、検出された銅は、雨水の酸性が強いと多く、0.3~55.3ppmでした。
土壌の中の銅の量が少なくなると、ホンモンジゴケのすぐ隣に、キヘチマゴケ(カサゴケ科、学名はPohlia bulbifera)の群生が見られ、銅の汚染の程度に応じた生育分布をしていることが分かりました。
石浦神社(社務所、金沢、右 ホンモンジゴケ、濃緑色)、左 キヘチマゴケ、黄緑色) 石浦神社(きまっし金沢、本多町、金沢): http://kimassi.net/ishiura/ishiurajinja.html.
(解説) 銅ゴケ(ホンモンジゴケ、キヘチマゴケなど)は、土の中の有毒な銅(緑青、イオン形、可溶)を組織中に取り込み、無毒な銅(メタロチオネイン錯体、ペクチン錯体、硫化物など、不溶)として蓄積して、枯れて土に帰り(無毒な腐食酸化合物、酸化銅、硫化銅などに変化、不溶)、また、胞子が飛んで芽を出し、生育することを繰り返し、周辺に銅の汚染が拡がるのを防いでいる、自然界における銅汚染の浄化の姿にも見えます。
(参考文献) 野口彰: 日本蘚類学略史、博物学会誌、2巻、p.13(1934); 桜井久一: 日本の蘚類、247,岩波書店(1954); 佐竹研一: 重金属に強い不思議なコケー環境汚染の指標植物として注目ー、科学朝日、49巻、p.55(1989); 織田樹郎、本浄高治: 重金属汚染地域の金属耐性コケ植物ータチゴケ、ホンモンジゴケ及びキヘチマゴケにおける銅、鉛及び亜鉛のキャラクタリゼーション-(英文)、植物地理・分類研究、43巻、p.91(1995); 本浄高治: 重金属と指標植物ー自然環境の回復-、日本海域研究所報告、30号、p.171(1999).
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