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2009年6月25日 (木)

生野銀山など金属鉱山の周辺に群生するシダ植物、ヘビノネゴザ(蛇の寝御座)、土壌とヘビノネゴザ組織内の重金属の分布状態、自然環境の重金属汚染と浄化、とは(2009.6.25)

  日本には、約800種のシダ植物が生育していると言われていますが、その中に、生野銀山(いくのぎんざん)などで、古くから山師連中により、金山草(かなやまそう、かなやましだ、かなけぐさ、コイヌワラビ)と呼ばれていたシダ植物、ヘビノネゴザ(学名は、Athyrium yokoscense(Fr. et Sav.)Christ 、和名は蛇の寝御座)があり、経験的に金属鉱床を探す指標植物(しひょうしょくぶつ)として利用されていました。

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生野銀山ヘビノネゴザの群落、生野、兵庫) 

(解説) 1897年(明治30年)、三宅驥一(みやけきいち)氏は、生野銀山の「へびのねござト鑛質トノ關係」の報文の中で、

「余本年夏期休業ニ際シ帰国セントスルヤ牧野氏余ニ託シテ曰ク、君ガ國ハ但馬ナレバ帰郷ノ途次必ズ生野銀山過クベシ彼ノ地ニ一種の羊歯Pteris in cisa, Thunb. かなやましだ(一名ゆのみねしだ)ナルモノアリ銀山ノ鉱石ノ出ル個所ニハ必ズ生ズレバ坑夫ハ此草ノ生ズル所ニハ鉱石在リト信シイルト聞ク君乞フ此ヲ採取シテ持帰レト」と、

植物学者、牧野富太郎(まきのとみたろう)氏から、かなやましだ採取の依頼を受けています。

三宅驥一(ウィキペディア): http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%AE%85%E9%A9%A5%E4%B8%80

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牧野富太郎(ウィキペディア): http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A7%E9%87%8E%E5%AF%8C%E5%A4%AA%E9%83%8E高知県立牧野植物園(ホームページ): http://www.makino.or.jp/.

 三宅氏は、旅宿の主人、畑を耕す農夫、坑夫にも、かなやましだが生育している場所を聞き、生野銀山の周辺を調べたところ、かなやましだは、残念ながら、特別なシダではなく、自分が先年この地で採取していた、へびのねござ( Asplenium yokoscense Fr. et Sav.)であることを確認し、「へびのねござト鉱質ト密ノ関係アルコト」と、簡単に報告しています。 

 ヘビノネゴザ金山草(かなやまそう)という異名は、金、銀、銅、鉛、亜鉛やカドミウムなどの重金属を含む鉱山地帯、金属精錬所周辺、金くず捨て場によく繁茂していることによるものです。和名蛇の寝御座は、地面から四方八方に葉を出し、目の細かさが何となく茣蓙(ござ)のように見え、蛇が敷いて寝るのに丁度よいという連想から名付けられたと言われています。

 また、ヘビノネゴザには、奇妙な伝説があり、ヘビノネゴザの生えている地下には、金の鉱脈があると言われています。昔から蛇はお金に御縁があると思われて生まれた黄金伝説です。私は、山のヘビノネゴザの葉の上に、蛇の抜けがらがあるのを見かけたことがあります。蛇の抜けがらに水を入れても漏れず、水が貯まることから、いつのまにか水がお金に換わって、お金が貯まるとの伝説になったようです。

 ヘビノネゴザは、その生育土壌中の重金属(可吸態、取り込み可能な化学形)の量の程度に比例して、体内(組織中)の根に多量の鉛、銅、亜鉛を蓄積し、特に生野、神岡鉱山では鉛、亜鉛、銅、佐渡金山では鉛、銅、亜鉛、別子、足尾銅山では銅、亜鉛、尾小屋、日立鉱山では亜鉛、銅の蓄積が著しいことが分かりました。これらのヘビノネゴザは、銅と鉛は主として根に、亜鉛は根から葉まで全身に、カドミウムは主として葉に取り込まれていることが分かりました

 最近、北川隆康氏は、多田銀山(兵庫)におけるヘビノネゴザの重金属分析をされ、ヘビノネゴザが、鉛、銅、亜鉛などの重金属のほか(乾燥重量、百万分率、10ppm程度)を取り込んでいることを、はじめて確認されました。また、このシダ植物は、銀を根から葉まで全身に取り込んでいることを明らかにしています多田銀銅山(猪名川町、川辺、兵庫): http://www.town.inagawa.hyogo.jp/dept/06200/d000622.html.

 足尾銅山ヘビノネゴザには、根の細胞壁に90%(2899ppm)の銅(ペクチン酸錯体)を、また、細胞質に10%(325ppm)の銅(メタロチオネイン錯体)が取り込まれていることが報告されています。 すなわち、ヘビノネゴザは、細胞壁の中に有毒な銅を閉じ込め、その毒性を軽減していると考えられます。また、生命の根源である細胞質に入っている銅は、ヘビノネゴザがメタロチオネインと呼ばれる蛋白質を作り、これが銅と結合して複核錯体の形で存在し、細胞液中に溶け出さないので、これが細胞液中の銅を無害にしてくれていると考えられています。 

 鉱山地帯では、ヘビノネゴザの群落状態は、金属鉱脈がどの方向に走っているかの目印にもなります。また、このシダは、4月頃に芽を出し11月頃には地上部の全てが枯れてしまう夏緑性のシダ植物ですが、土壌中の重金属は、その量(可吸態、根に取り込み得る化学形)に応じて、すき好むものではなく、受動的に体内に取り込みながら、繁茂と枯死を繰り返し、枯死してできた腐植酸は有毒な重金属を包み、無毒化し、重金属の周辺への拡散を防ぎながら、自然を回復させている姿にも見えます。 

(参考文献) 三宅 驥一: へびのねござト鉱質トノ関係、植物学雑誌、129号、p.404-406(1897); 雪国の植物誌、八坂書房、p.198(1990); 本浄高治: ぶんせき(日本分析化学会)、指標植物中の重金属のキャラクタリゼーションー重金属の集積に耐性のある植物についてー、p.213(1990); 鈴木静夫: 水の環境科学、大気の環境科学、内田老鶴圃(1993); 本浄高治: 重金属と指標植物ー自然環境の回復-、日本海域研究所報告(金沢大学)、30巻、p.171(1999); 北川隆康: 兵庫県多田銀山におけるヘビノネゴザの重金属分析、植物地理・分類研究、第53巻、p.161(2005). 

(参考資料) 生野銀山(いくのぎんざん、シルバー生野、生野、兵庫):http://www.ikuno-ginzan.co.jp/about/about01.html.

(追加説明) 

〇 シダと探鉱(指標生物 メモ②、大野正男、日本自然保護協会編、指標生物、自然をみるものさし、平凡社、1994)  

 今では新しい鉱山の発見などごくまれになってしまったが、 かっては、一獲千金を夢見た山師たちが、山野を跋渉して探鉱に余念がなかった。探鉱は地質学、地層学、鉱物学などの知識によるのがオーソドックスな方法であろうが、ここには、風変わりな生物学的方法を紹介することにしよう。

 シダ植物の1種にヘビノネゴザという種類がある。何の変てつもないシダであるが、この種類、その生育途上、地中から水といっしょに吸収した重金属を細胞内にやたらため込む性質をもっている。そこで、山野を歩きまわりながらこのヘビノネゴザを採集して帰る。帰ってからこの植物を分析にかける。特定金属の異常な数値が出たとしよう。それを採集した場所は有望な鉱山となる可能性があるというわけである。このようにうまくいけば、このヘビノネゴザ、まさに探鉱の際の指標生物として利用価値が高いということになろう。

 しかし一方では、このヘビノネゴザの重金属集積性を利用して鉛などによる環境汚染を調べた例もある。石川県金沢城の鉛瓦から溶出する鉛汚染の実態をヘビノネゴザによって調べた例などがそれである。探鉱だけでなく、重金属汚染調査の指標植物としても、このヘビノネゴザ、おおいに利用できそうである。詳しくは、本浄高治ほか「指標植物中の重金属の状態分析ー金沢城鉛瓦による汚染地域に群落をなすシダ植物ヘビノネゴザの鉛の集積と耐性について」、植物地理・分類研究、32(1)、68~80(1984); 石沢正一ほか「ヘビノネゴザの重金属含有量について」、米子医学会誌、31、349(1980)を参照。

〇 明治政府の「お雇い外国人第1号」

 生野鉱山(兵庫県朝来(あさご)市生野町)の近代化の礎を築いたフランス鉱山技師、Coignet(1837~1903)が来日して、2017年(平成29年)で150年。

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フランス鉱山技師、Coignet(コワニェ、1837~1903)

 明治政府の「お雇い外国人第一号」として地元では有名だが、実は名前の読み方が定まっていない。朝来市では「コワニェ」に統一するよう呼び掛けている。(2017年8月2日(水)北陸中日新聞より)

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