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2009年6月26日 (金)

尾小屋銅山など金属鉱山の周辺に群生する低木、リョウブ(令部)、土壌とリョウブ組織内の重金属の分布状態、自然環境の重金属汚染と浄化(植物群落の遷移)、とは(2009.6.26)

  リョウブは、初夏(7~8月)の頃、木の枝先に集まった葉の中心から放射状に突き出た真っ白い数条の総状の花が咲いているのがよく見られます。また、葉は倒卵状の長楕円形で、縁に鋭い鋸葉があり、主脈は太くて表面は凹んでいます。

 その昔、リョウブは、若葉を湯がいて乾燥させ、米に混ぜて炊き、令法飯(りょうぶめし)として、またその新芽を穀物の粉と一緒に団子にして食べるなど、飢餓の救荒食料として重要なものでした。

 平安時代の初期から中期(律令国家の末期)にかけて、農民に対し、田畑の面積を基準として、一定量のリョウブの植栽及び葉の採取と貯蔵を命ずる官令が発しられ、こうした官令、すなわち令部(りょうぶ)が、そのままこの木の名前となったと言われています。

 ところで、リョウブは、旧金属鉱山など貧栄養の地域にも群生しているのがよく見られます。尾小屋銅山の周辺では、リョウブが生育している近くに、ウツギ、クズ、イタドリ、ヘビノネゴザ、ホンモンジゴケなどの共生、群落(群生)あるいは散生が見られました。

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尾小屋鉱山(鉱山の入り口、小松、石川) 尾小屋鉱山資料館(おごやこうざんしりょうかん、尾小屋、コマツ、石川): http://www.city.komatsu.lg.jp/shomu/s_ogoya.html.

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リョウブ(尾小屋鉱山、小松、石川、 リョウブの成木、 リョウブの幼木)

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尾小屋鉱山のリョウブの幼木と成木の組織(葉、幹、根、樹皮)中の重金属(銅、鉛、亜鉛)含量

(解説) リョウブの異名は、サルナメシですが、それは樹皮がサルスベリに似ていることに由来し、各地でスルスベリとも呼ばれ、その樹皮が薄片となって剥がれ落ちる性質があります。

 尾小屋鉱山のリョウブの幼木では、銅は根からのみ、鉛は根と幹からその大部分が検出され、葉からはほとんど検出されませんでした。一方、亜鉛は根、幹ばかりでなく葉からも多く検出されました。

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1-(2-ピリジルアゾ)2ナフトールでリョウブの組織(幼木の根の横断面)中の亜鉛を赤色に染色(尾小屋鉱山のリョウブの幼木の根の亜鉛分布)

(解説) リョウブの幼木の根をミクロトームで横断した切片を1-(2-ピリジルアゾ)2ナフトールで染色したところ、表皮が赤色に染色されることから、亜鉛が主に表皮に分布していることが確認できました。

 また、リョウブの成木では、樹皮と葉に銅、亜鉛、鉛が検出されましたが、特に多量の亜鉛が樹皮ばかりでなく葉にも多く分布し、樹皮や葉を落とすことによって組織中に蓄積された重金属を体外に除去している姿が見られました。

 足尾鉱山の周辺の山は麓からヘビノネゴザの大群落で覆われ、山奥に行くにつれてススキ、イタドリ、クズやササ、そしてウツギやリョウブの林へと続いていました。四国の銅山、別子鉱山(愛媛)、白滝鉱山(高知)においても、よく似た植生が観察されています。

 また、足尾銅山で生育していた、ヘビノネゴザ、イタドリ、バッコウヤナギ、ヨモギ、ノガリヤス、リョウブなどの植物は、いずれも体内(組織中)でメタロチオネイン(細胞質に取り込まれた重金属と結合、無毒化)を作る種類ばかりでした。このことは、重金属で汚染された土壌で生育可能な植物種は、このような特殊な蛋白質を合成できる種類(この特性は、遺伝子配列の変化で獲得、後天的)に限られると考えられます。 

 この重金属耐性の獲得の謎の解明は今後の課題です。というのも、重金属で汚染されていない地域で生育した同じ種の植物を汚染地に移植しても、全てが生育するわけでもなく、枯死するものも多く、また重金属の取り込みも必ずしも多くないからです。

 リョウブの特性として、1958年(昭和33年)、山形登氏らは、日野上鉱山(鳥取、日南)において、リョウブの葉にコバルトが特異的に集積していることを確認しています。また、1991年(平成3年)、岡本研作氏(国立公害研究所、のち国立環境研究所)は、足尾銅山(栃木、足尾)に群生していたリョウブの葉を採取して、重金属(銅、鉛、亜鉛、カドミウム、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄など)を含む植物(重金属蓄積植物)の環境標準試料としての利用を紹介しています。

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一般的な植物群落の遷移(自然環境の回復、図表、浜島書店)

(解説) 一般的な植物群落の遷移においては、例えば、金属鉱山での鉱石の採掘と製錬、山火事や伐採などで樹木を失った土地には、先駆植物として地衣類やコケ植物(ホンモンジゴケ、キヘチマゴケなど)が一面に繁茂し、枯死により土地が肥えると、シダ植物(ヘビノネゴザ、スギナ)などの時代に移ります。さらに土地が肥えると、草本類(一年生の草のイタドリ、ススキ、クズや多年生の草であるササなど)のソデ群落に移ります。さらに土地が肥えると、灌木(低木類の陽樹であるリョウブ、ウツギ、アカマツなど)のマント群落に移ります。その日陰に高木の陰樹であるアラカシ、モミ、ブナなどが生え、陰樹が生長して陽樹を追いやり、それぞれの段階で数十年から数百年を経て遷移が進み、最後に植物相が安定した極相林(きょくそうりん、クライマックス)、いわゆる鎮守の森となります。

 特に先駆植物(地衣類やコケ植物)から低木類(リョウブ、ウツギなど)までの植物種の遷移(移り変わり)期間が、自然環境における土壌重金属の汚染と回復につながりが深いと考えられます

(参考資料) 日本三大銅山(足尾、小阪、別子、新聞記事文庫、神戸大附属図書館): http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/ContentViewServlet?METAID=00064252&TYPE=HTML_FILE&POS=1&LANG=JA; 別子銅山のあゆみ(愛媛): http://www.city.niihama.lg.jp/unyu/kankou/besshidouzan/ayumi.htm.

白滝鉱山歴史(銅山、高知): http://www.yamajikaze.net/akaishi/history/shirataki.htm; 日鉱白滝鉱山: http://www10.tok2.com/home2/kurodaiya/No.3/sirataki/sirtaki.html; 白滝鉱山見学http://yosuzume2.web.infoseek.co.jp/kouzan/shirataki/shirataki_01.html

(参考文献) 山中二男: 銅山(別子鉱山、白滝鉱山)地帯の植生(予報)、植物分類地理、15巻、p.199-200(1954); 山形登、村田貞雄、公衆衛生院研究報告(英文)、13巻3号、p.170-175(1964); 岡本研作: 国立環境研究所ニュース、10巻1号(1991); 浜島書店編集部: 増補最新図表生物、浜島書店(1995): 本浄高治: 重金属と植物ー汚染地の土壌改良者たち、週刊朝日百科、植物の世界(朝日新聞社)、119号、p.13-316ー13-318(1996); 鈴木静夫: 水の環境科学、大気の環境科学、内田老鶴圃(1993); 本浄高治: 重金属と指標植物ー自然環境の回復-、日本海域研究所報告(金沢大学)、30号、p.171-193(1999).

(追加説明) 尾小屋(おごや)における銅鉱脈は、1678年(延宝6年)、加賀5代藩主前田綱紀(まえだつなのり)の頃発見されたと言われています。産銅価格の低迷と鉱害(梯川流域のカドミウム汚染)がもとで、1971年(昭和46年)12月閉山やむなきに至り、約300年の歴史に幕を閉じています。近くの石川県立尾小屋鉱山資料館(小松)では、尾小屋鉱山に関する鉱石類、鉱山用具、採掘から精練に至る工程などの展示と坑内採掘の歴史が見られます。また、この鉱山の坑内巡りで当時の仕事の様子も見学できます。

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