碁盤、木画紫壇棊局(最古、国宝)にまつわる歴史伝承、聖武天皇(第45代)の遺愛棋具(正倉院、奈良)、囲碁の時代認識、とは(2010.6.4)
奈良時代、東大寺大仏殿の北西にある校倉(あぜくら)造りの正倉院(しょうそういん)宝庫には、聖武天皇(第45代)、701年(大宝元年)~756年(天平勝宝8年)、の遺愛品、東大寺の寺宝、文書など、7~8世紀の東洋文化遺産、9千余点が納められました。
その中に、碁盤(3面)、碁盤容器(1具)、碁石(4種)、碁笥(ごけ、2種)、囲碁図が描かれた楽器(1具)など、11点の棋具(国宝)が現存しています。碁盤の中でも、木画紫壇棊局(もくがしたんのききょく、棊局は碁盤の意味)と名付けられた華麗な碁盤が、人気度でベスト5に入るそうです。
聖武天皇(ウィキペディア): http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%81%96%E6%AD%A6%E5%A4%A9%E7%9A%87.
碁盤(木画紫檀棊局、もくがしたんのききょく、亀(スッポン)を象(かたど)った二つの引出しは、アゲハマ入れと考えられています、正倉院蔵、奈良、google画像)
756年(天平勝宝8年)の東大寺献納目録(国家珍宝帳)には、百済(くだら、朝鮮)の義慈王(ぎじおう、第31代、599~660年)から藤原鎌足(ふじわらのかまたり)、614年(推古天皇22年)~669年(天智天皇8年)に碁石(撥鏤棊子、ばちるのきし)と碁石入れ(銀平脱合子、ぎんへいだつのごうす)が贈られていたことが記録されています。それらは、木画紫壇棊局(もくがしたんのききょく)1面と共に、3セットとして、同時に送られてきたものと考えられています。この碁盤は、専用の碁盤入れ、金銀亀甲龕(きんぎんきっこうのがん)に納められていました。
碁石(左 紺牙撥鏤棊子(こんげばちるのきし)、右 紅牙撥鏤棊子(こうげばちるのきし)、象牙を紺と紅に染め、表面に花食い鳥が彫り込まれています、正倉院蔵、奈良、google画像)
木画紫壇棊局(もくがしたんのききょく)は、縦横49.0cm、総高12.6cm、碁盤の容器の龕(がん)は、縦53.3cm、横53.7cm、総高15.6cmで、現在の碁盤よりもやや大きく、高さの低いものです。なかでも、その碁盤の側面に象眼(ぞうがん)された駱駝(らくだ)などの動物や人物、文様が中央アジアの風俗を伝えています。というわけで、これは東西交流の道、シルクロードを通って伝来された品物と思われます。また、亀形の碁石入れを内蔵する引出しは、一方を引くと向こう側も出る入念な細工となっています。
木画紫壇棊局(もくがしたんのききょく)は、縁になる線を含めると、盤面上の条(骨を埋め込んだ細工)は、縦横それぞれ19です。19条19路の盤面の目(交点)の数は総計361箇です。また、5弁の花を象(かたど)った美しい装飾の花点(星、最初の置き石の位置)が17箇あります。これは、最初に花点に石を置いて打ち始める百済(朝鮮)の事前置碁法(じぜんおきいしほう)の碁盤であることを示しています。
(参考文献) 増川宏一: ものと人間の文化史 59 碁、法政大学出版局(1987); 白川正芳: 囲碁の源流を訪ねて、日本棋院(1999); 水口藤雄: 囲碁の文化誌、起源伝説からヒカルの碁まで、日本棋院(2001); 日本棋院編: 日本棋院創立80周年記念、囲碁雑学手帳、月刊碁ワールド1月号第2付録、日本棋院(2005)
(参考資料) 正倉院(ホームページ、宮内庁): http://shosoin.kunaicho.go.jp/
(追加説明) ○ 囲碁の時代認識
奈良時代、唐の律令を真似たと思われる僧尼令の中に、音楽及び薄戯(雙六、囲碁など)をする者は百日の苦役に処す。ただし、碁琴は制限しない、とあります(大宝律令、養老律令)。
平安時代、僧の寛蓮(かんれん、碁聖、俗名橘良利)が醍醐天皇(第60代)の命により勅撰碁経、碁式を撰進、また天皇との賭碁で金の枕をもらい、仁和寺の旁らに弥勒寺を建立したと言う(今昔物語)。
清少納言の枕草子(寸評)と紫式部の源氏物語(空蝉など)には、囲碁に関する描写が随所にあり、述語や用語の記述から二人ともかなりの碁の打ち手であったと言う。
空海(弘法大師)の遺告として、835年(承和2年)3月、帝王編年記の条には、碁琴制限にあらず、と記されています。中国に留学した空海は、碁琴について、唐の評価を知り、その影響を受けていたと考えられています。
鎌倉時代には、玄尊(囲碁式、碁盤の規格、長1尺4寸5分、広1尺4寸を定める)、室町時代には、同朋衆(どうぼうしゅう)の重阿弥(宣胤卿記)がいましたが、二人とも碁の強い打ち手(名手)であったと言う。
江戸時代には、本因坊家、井上家、安井家、林家など、囲碁の4家元があり、徳川幕府の禄を受け、御城碁で仕えました。
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