菱刈金山(鹿児島)の金鉱床と金集積植物、金鉱脈の浅熱水鉱床、金を取り込むヤブムラサキ、ホソバカナワラビ、とは(2010.8.9)
常温では金は水に溶けないのですが、地下のマグマの熱と強い圧力のもと、300℃以上に熱せられた地中深くの熱水により、鉱物から溶かし出されます。熱水は地表に向けて上昇しながら、圧力や温度の低下により沸騰し、また、化学反応を起こし、200~250℃で金や銀を石英と共に吐き出します。これが地層の割れ目にたまったり、鉱物にしみ込んだりして、海底に噴き出します。このようにしてできた岩石の金の含有量は普通の岩石の数千倍以上になっています。また、金鉱石が浸食されて砂金になったり、堆積した地層も見られます。
菱刈金山の金鉱脈(黒っぽい岩盤に上下に走る白い帯が金鉱脈です、住友金属鉱山菱刈鉱山、菱刈、伊佐市、鹿児島、google画像)
(解説) 菱刈金山(鹿児島)の金鉱脈は、500万年前より後の火山活動でできたものです。それは、地下のマグマが基盤岩を押し上げた際にできた割れ目に沿って、金を含んだ高温の熱水が地表近くまで上昇し、石英と共に金が沈着して形成された、浅熱水鉱床と言われています。この熱水は地表にまで達していて、このため金鉱のすぐ上の安山岩が、熱水で粘土質に変質したり、鉄分が変化しています。
菱刈の金鉱脈の先端は、標高80~120mにあって、金の平均含量が80ppm(普通は6ppm以下)、予想採鉱可能な金含量が120トンという高品位の金鉱脈で、佐渡金山(新潟)の金鉱床の総生産量77トンを上回るということで、大きな話題となりました。ppmは100万分率(1ppmは100万分の1)です。
その後、1997年(平成9年)5月31日に、1985年(昭和60年)の操業開始からの金の生産量が83.1トンに達し、1601年(慶長6年)~1989年(平成元年)まで操業した、佐渡金山の83トンを抜いて、金の産出量が日本一となり、2003年(平成15年)3月末には、128.8トンに達しました。
また、菱刈金山は、鉱石1トン中の金含量は約40グラムで,現在操業中の金鉱山では,世界一の金品位で、埋蔵推定量は260トンと言われています。
ところで、金属鉱床の探査に植物を利用する例として、古くから金属鉱脈を探査するとき、山師の間では金山草(かなやまそう)と呼ばれ、その目印としたシダ植物、ヘビノネゴザは、よく知られた指標植物です。
金を取り込む植物(上 ヤブムラサキ(クマツヅラ科)、 下 クロモジ(クスノキ科)、 google画像)
(解説) 1987年(昭和62年)頃、西村和雄氏(京都大学農学部農芸化学教室、1945~ )は、金属鉱業事業団の依頼を受け、菱刈金山の鉱脈を中心に、東西3km、南北4kmの調査区域を設け、そこに生育している植物の葉に含まれる金を含む約30元素を中性子放射化分析し、金鉱脈の存在を特定できるか検討しました。
採集の対象とした植物は、ススキ、カンザブロウ、ヤブツバキなど6種類、シダ、単子葉植物各1種類、双子葉の木本植物4種類でした。その結果、2種類の植物(ヤブムラサキ、ホソバカナワラビ)の金含量(10~36ppb)が他の植物より非常に高く、金鉱脈の位置とほぼ一致していることを明らかにしました。ppbは10億分率(1ppbは10億分の1)です。
植物による金の取り込みについては、プラム(スモモ?)の類は根から青酸化合物を分泌するので、これが金と錯体を形成し、金が可溶化するという報告もあるそうですが、菱刈金山のヤブムラサキとホソバカナワラビがそれと同じように青酸を分泌しているかは不明とのことです。なお、外国には、金を取り込む植物として、チェコスロバキアのイヌスギナ(Equisetum palustre)、ブラジルのガマ(Typha latifolia)などが知られており、組織中にシアン配糖体を含み、金をシアン化物(青酸化合物)として取り込んでることが確かめられています。
(参考文献) 高橋英一: 比較植物栄養学、養賢堂(1974); 小山睦夫、高田実弥、白川正広、片山幸士: 中性子放射化分析法による植物葉中の微量元素の分布と特異集積の研究ー特にコバルト、マンガン、亜鉛、カドミウム、希土類元素、ラジウム等についてー、放射性コバルトの放射生態学的諸問題に関する短期研究会報告、p.1~20(1982); 金属鉱業事業団、住友金属鉱山(株)菱刈鉱山の発見と開発、鉱山地質、37、p.227~236(1987); 西村和雄 : 研究紹介、植物を用いる金鉱床の探査、京大RIニュース、No.30、p.2~7(1989); 本浄高治: 話題、指標植物中の重金属のキャラクタリゼーションー重金属の集積に耐性のある植物についてー、ぶんせき、3、p.213~215(1990); 朝日新聞朝刊: 金鉱探査、葉の中を見ればピタリ当たる!?、金鉱探査に使われる植物、ヤブムラサキ、クロモジ、金属鉱業事業団、植物センサー開発中、鉱物の吸収、蓄積現象に着目、1992年4月29日(水); (財)日本自然保護協会編(監修): 指標植物、自然をみるものさし、p.97、大野正男、シダと探鉱、ヘビノネゴザ、平凡社(1994); 山本真男: 金山、菱刈が、佐渡を超えて日本一に、SCIaS、8.1.p.16~17(1997).
(参考資料) 菱刈金山(日本一の金山、ホームページ、鹿児島県): http://www.pref.kagoshima.jp/aa02/pr/gaiyou/itiban/shizen/hishikari.html
植物による鉱脈探し(12.植物の世界、朝日新聞社): http://www2u.biglobe.ne.jp/%257egln/13/1312a.htm;
ヤブムラサキ(金集積植物、石福金属鉱業):http://www.ishifuku.co.jp/market/price/soba/2007/20070501_54.html;
ヤブムラサキ(クマツヅラ科、岡山理科大、植物生態研究室): http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/sympetalae/verbenaceae/yabumurasaki/yabumurasaki.htm.
クロモジ(クスノキ科、岡山理科大、植物生態研究室): http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/lauraceae/kuromoji/kuromoji.htm.
(追加説明) 金の使用は極めて古く、古代エジプトでは、紀元前3000年頃すでに水簸法(すいひほう、ワンカケ法?)で金が採取され、日本では749年(天平感宝、天平勝宝)、初めて陸奥国(奥州)から金を産出しました。
金は金属中最も展延性が大きく厚さ0.1ミクロンの箔(はく)にできます。金は化学的に安定ですが、シアン化カリウム(青酸塩)、王水(濃塩酸:濃硝酸が3:1の混合溶液)、水銀には可溶です。
金の大部分は、自然金、すなわち山金(やまきん)の状態で、また、砂金としても産出します。(下中邦彦編:小百科事典、平凡社(1973)より)
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