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2012年12月12日 (水)

泉鏡花(金沢出身の作家)にまつわる歴史物語、高野聖、四国の辺地を通る僧(今昔物語)、とは(2009.7.9)

   高野山には、平安時代以来、江戸まで、 高野三方(こうやさんかた)と呼ばれる僧、学侶方(がくりょがた)、行人方(ぎょうにんがた)、聖方(ひじりかた)の三階派(明治以降は廃止、統合)がありました。聖方は、高野聖(こうやひじり)とも呼ばれ、初め高野山の念仏修行者を言いましたが、平安中期以降、諸国に勧進(かんじん)を行い、高野山に対する信仰(高野浄土)を広めました。この勧進がもと、弘法大師の伝説が日本各地に生まれました。

泉鏡花記念館(ホ-ムページ、下新町、金沢、石川): http://www.kanazawa-museum.jp/kyoka/index2.html..

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泉鏡花(ウィキペディア): http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%89%E9%8F%A1%E8%8A%B1

 泉鏡花(いずみきょうか、1873年(明治6年)~1939年(昭和14年)、作家、下新町、金沢)は、父(彫金師)清次と母(能太鼓家系)鈴の長男として生まれました。1882年(明治15年)、9才の時に母が死去し、その後は亡き母親の面影を追い求め、理想とする女性像を作品の中に次々と作り出しました。1891年(明治24年)、18才の時、東京の尾崎紅葉の内弟子として認められ、玄関番として住みこみ作家としての道を歩み始めています。その後多くの優れた作品(400編以上)を発表、有名な高野聖では、独自の幻想的な世界を確立しています。1939年(昭和14年)9月、65才で死去、雑司ケ谷墓地(東京)に埋葬されています。

 高野聖の作品は、1900年(明治33年)、27才のとき、新小説に発表しています。 高野山に籍を置く45,6才の旅僧が、越前敦賀(つるが)の旅籠屋(はたごや)に同宿した私に、寝床で話してくれた、世にも不思議な話です。その僧は、あとで聞くと宗門名誉の説教師で、六明寺(りくみんじ)の宗朝(しゅうちょう)という大和尚(だいおしょう)でした。

 その話は、飛騨から信州へ越える深山の間道、天生峠(あもうとうげ)で、僧は旅の道連れになった富山の薬(反魂丹、はんごんたん)売りの後を追ったところ、大蛇(だいじゃ)に道をふさがれ、山蛭(ひる)が降ってくる森があり、その奥の宿泊を頼む一軒家には、神通自在(じんつうじざい)の嬢様(じょうさま)と呼ばれる妖艶(ようえん)な美女(亭主は白痴殿、小児)がいて、俗人の旅の男を性的な魅力で誘惑したあげく、谷川の水を浴びせて、また息を吹きかけて、兎(うさぎ)、蛇、馬、猿、蟇蛙(ひきがえる)、大蝙蝠(おおこうもり)などの畜生の姿に変えてしまう。富山の薬売りも馬に変えられていたが、旅の僧だけは、嬢様の誘惑にも負けず、御坊様としての行儀(ぎょうぎ)を守ったので、途中邪心も起こったが、百姓(親仁)の助言にも助けられ、人間の姿で里に下りて来ることができたという話です。ここでは、高野聖のあくまでも仏の道を修める人間道の姿、一方、薬売りはじめ旅の男達の愛欲に溺れる畜生道の姿を、幻想的な美しい浪漫主義文学として描き出しています。

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高野聖(鏑木清方、挿画) 

 ところで、鏡花の高野聖では、高野の旅の僧ではなく、道連れの男(富山の薬売り)が、妖艶な美女によって馬に変えられますが、一方、鏡花も愛読したと思われる、平安の後期に出た、今昔物語では、京の仏道修行の僧が、四国の深山で、妖怪の僧によって馬に変えられる話となっています。

(解説) 京の三人の仏道修行の僧が、四国の僻地(へきち)、それは伊予(いよ)、讃岐(さぬき)、阿波(あわ)、土佐(とさ)の海辺に沿ったところですが、思いがけず深い山中、人跡絶えた深い谷(異郷)に迷い込み、そこの宿泊を頼む一軒家には、60才余りの妖怪のような僧がいて、怪しげな法師に、二人の僧の肌を鞭(むち)で百回叩かせ、次々と馬に変えさせたが、一人の僧(日頃頼みにしていた本尊に、どうかお助け下さい、と心の中で祈念し続けた)だけが、途中二人の女(鬼の妻と妹)にも助けられながら、這々(ほうほう)の体(てい)で、逃げ帰ることが出来たという話です。 

 かの修行者は、そこから国々を回って京に帰って、馬になった二人の同学の僧のため、特に念入りに供養を営みました。実際に人をたたいて馬に変えるなど、信じられない。そこは畜生道(仏教の六道の一つ、牛馬など畜生の世界で、ほとんど本能ばかりで生きており、自力で仏の教えを得ることの出来ない)などであっただろうか、と僧は考え込みます。

 人間の心の発達段階を表した、空海(57才)の十住心論(じゅうじゅうしんろん、830年(天長7年)、秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)、要約版)中の第一住心、異生羝羊心(いしょうていようしん、愛欲、衣食住のことしか頭に無く、何も考えず本能のままに生きている)に相当するものです。

 この種の伝承は、「人馬」(狂言)、「旅人馬」(日本昔話大成250)にも取り入れられています。また、古くは、「利養品下」(出曜経、15)、「唐代の板橋三娘子」(太平広記、286)、「人の子、親の為に宝とみゆるためし」(宝物集、一)の条項にも出ています。

 人間道 は、人間が住む世界で、四苦八苦に悩まされる苦しみの大きい世界ですが、苦しみが続くばかりではなく楽しみもあり、仏になりうる救いもあるという。仏教では、人間の迷いの輪廻の世界として、この他、修羅道 (しゅらどう)、餓鬼道(がきどう)、地獄道(じごくどう)があります。

 思うに、いかに身を捨てて修行するとは言っても、やたら不案内な土地(異界)に行てはならぬものだとの、かの修行者が実際に体験した話の教訓です。

(参考文献) 五来重: 増補 高野聖、角川選書(1975); 新日本古典文学大系、今昔物語5、巻第31、本朝付雑事、p.470、岩波書店(1996)、原本、1108年(嘉承3年); 日本古典文学全集38: 今昔物語集(全四冊)、巻第27~31,小学館(2002); 高木訷元、岡村圭真編: 日本の名僧、空海、密教の聖者、吉川弘文館(2003).; 泉鏡花: 高野聖、集英社(2007); 穴吹史士(文)、白谷達也(写真): 泉鏡花、「高野聖」、「婦系図」、恩師に背いた恋の行方、be on Saturday、2007年(平成19年)10月6日(土).

(参考資料) 泉鏡花(google画像); http://images.google.co.jp/images?sourceid=navclient&hl=ja&rlz=1T4GGIH_jaJP278JP279&q=%E6%B3%89%E9%8F%A1%E8%8A%B1&um=1&ie=UTF-8&sa=N&tab=wi

○ 1108年(嘉承3年)「今昔物語(こんじゃくものがたり、古説話集)」では、「京の僧、四国の遍地を廻る」、1157年(保元2年)「梁塵秘抄(りょうじんひしょう、後白河法皇編著、今様歌謡集)では、「四国の辺道をぞ常に踏む」など、四国遍路のことが記述されています。(四国へんろ春秋、2000年(平成12年)5月1日、四国八十八ヶ所霊場六番、安楽寺住職、畠田秀峰著、より)

お遍路のススメ(友の講): http://maenaem.com/henro/sp.htm

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● ふるさと(四国遍路、空海(弘法大師)、四国88ヵ寺(徳島23、高知16、愛媛26、香川23)、高野山(金剛峰寺、真言宗、和歌山)、高野聖(泉鏡花)、最澄(伝教大師)、比叡山、暦寺、天台宗、京都)」カテゴリの記事

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