芸術と数学(絵画や庭園の美にひそむ数理、黄金比)、富嶽三十六景の富士山と波、竜安寺の方丈庭園と石、とは(2013.9.13)
いつの頃か、絵画や庭園などの芸術作品の美には、黄金比などの数理がひそんでいる、との指摘があります。そこで、富嶽三十六景の富士山と波、竜安寺の方丈園と庭石などの背後にある数理的な考え方について、改めて調べてみました。
○ 富嶽三十六景の富士山と波
富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい、神奈川沖浪裏、江戸時代後期、浮世絵師・葛飾北斎作)
(解説) 富士山はとても小さく、波はとても大きく描かれています。葛飾北斎((かつしかほくさい、1760~1849)の絵画は大胆かつ奇想天外な構図をしています。しかし、北斎は感覚だけでこの構図を思いついたのではなく、定規とコンパスを使って幾何学的に作図をして描いていたという。
北斎の作図の方法は、まず、紙に2本の対角線を引きます。次に、左下の隅を中心として、紙の縦の長さを半径とする4分の1の円弧を描きます。
次に、できあがった線を富嶽三十六景に重ねると、下図のようになります。すなわち、左下の隅から引いた対角線と円弧の交わるところが波の先端、左上の隅から引いた対角線と円弧の交わるところが富士山の頂上になっています。
実際は、これだけではなく、全部で3本の直線と19本の円弧で数学的に計算した構図で描かれていると言われています。
また、富嶽三十六景には、黄金比(おうごんひ)が見られる、とのことです。黄金比、すなわち、黄金分割(おうごんぶんかつ、一つの線分を外中比に分割)は、1:(1+√5)/2、(ほぼ1対1.618; 5:8)のことです。これは、長方形の縦と横との関係など安定した美感(ピラミッド、パルテノン神殿、ミロのビーナスなど)を与える比、とされています。
○ 竜安寺の方丈庭園と石
竜安寺の方丈庭園(りょうあんじほうじょうていえん、石庭 、右京区、京都)
(解説) 竜安寺の方丈庭園の石庭には、西欧手法の遠近法だけではなく、当時、ヨーロッパ庭園で流行した黄金分割の手法が見られると指摘されています。
すなわち、方丈から見て、まず右側から1:1.618の黄金比の長方形をつくり、対角線を引くと5組の石郡の内、3組がその線上にぴたりと並びます。
次に、この対角線を延長し、塀との交点から垂直な線を引くと、もう一つの黄金比の長方形の対角線となり、残る2組の石郡の一つが線上に並びます。
そして、残る一組の石組も、逆手から造られた黄金分割線上と黄金比の長方形の交点上にぴたり重なります。
この他、石庭そのものが12×24メートルという2つの正方形に分割され、やはりここにも西欧の整形式庭園の手法が認められます。すなわち、竜安寺の造形意図は、西欧手法による幾何学性にあると言えます。
ということで、竜安寺石庭の作庭者は、西欧の技術に明るかった小堀遠州(こぼりえんしゅう、1579~1647)ではないかと推察されています。
(参考資料)
○ 美の背後に潜む数理(東京理科大学理数教育センター長 秋山仁):http://mathsoc.jp/publication/tushin/1702/1702akiyama.pdf.
○ 富嶽三十六景(おらが富士、佐藤一): http://www.plantatree.gr.jp/oragafuji/message/sato_hajime.html.富嶽三十六景では、富士山で使った稜線を表す曲線が、指数関数(y=eX)でも表されるという。
○ 小堀遠州(大名、茶人、造園家)にまつわる歴史秘話、加賀3代藩主前田利常にあてた書状の発見、長生殿(日本3名菓、加賀)の命名と3字の筆跡、頼久寺(高梁市、岡山)の庭園、砂糖の道、とは(2011.3.14): http://kanazawa-sakurada.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/166.html.
○ 数字(大数、小数)と図形(黄金比、白銀比)にまつわる歴史実話、東洋、西洋の思考、感性の違い、デジタル(二進法)とアナログ(フーリエ解析)のコンピュター(計算機)、とは(2009.9.5): http://kanazawa-sakurada.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/28.html.
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