日本の和食(わしょく)が、2013年(平成25年)12月4日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により、「和食;日本人の伝統的な食文化」として、無形文化遺産に登録されました。
この時の要件は、(1) 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、(2) 栄養バランスに優れた健康的な食生活、(3) 自然の美しさや季節の移ろいの表現、(4) 年中行事との密接な関わりの4点とされています。
これは、日本の和食が世界に誇れるものであることを示しています。そこで、日本の伝統的な和食について、改めて調べて見ました。
〇 一汁三菜(もと鎌倉時代、禅寺の献立)
一汁三菜(いちじゅうさんさい)という言葉は、鎌倉時代、禅寺における質素倹約を重視した食事の献立の構成の一つで、主食(白飯)、汁物(味噌汁)1品とおかず(惣菜、主菜1品、副菜2品)3品、漬物(香の物)の4種類をセットにしたものです。三菜(おかずとも、菜3品)は、膾(なます)、煮物、焼き物のことです。
懐石料理(かいせきりょうり)は、日本古来の一汁三菜の食法を基本とし、通常は茶の湯の席でお茶をいただく前に出される料理のことです。
一汁三菜(いちじゅうさんさい、健康な食生活の基本、日本うま味調味料協会、東京):http://www.umamikyo.gr.jp/recipe/category_01_2.html.
一汁三菜(いちじゅうさんさい、Google画像検索):https://www.google.co.jp/search?q=%E4%B8%80%E6%B1%81%E4%B8%89%E8%8F%9C&hl=ja&rlz=1T4GGNI_jaJP523JP523&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwjU6tfoi_bdAhWCgbwKHdfIBcIQ_AUIDigB&biw=1366&bih=566
〇 味の分類(西洋四味、中国五味、日本六味)
古来、味の分類には、西洋四味、中国五味、日本六味という言葉があります。これは、西洋人は味を、甘い(甘味)、すっぱい(酸味)、塩辛い(塩味)、ぴりっと辛い(辛味)、の四味に分ける。中国人はこれに、苦い(苦味)を加えて、五味に分ける。中国では、五味の調和、というのが調理の基本となっています。 日本人はさらに、うまい(うま味)を加えて、六味としました。
このうま味の主な成分は、昆布(こんぶ)ではグルタミン酸(グルタミン酸ナトリウムとも、アミノ酸、味の素!)、鰹節(かつをぶし)ではイノシン酸(イノシン酸ナトリウムとも、核酸)、シイタケではグアニル酸(グアニル酸ナトリウムとも、核酸)、シジミ、アサリなど貝類ではコハク酸(コハク酸ナトリウムとも、カルボン酸)と呼ばれる有機化合物です。
これらのうま味の成分は、食品中に適度に混在するとうま味がぐっと増す、ことが知られています。これをうま味の相乗効果と呼んでいます。
〇 アスペルギルス・オリゼ(日本こうじカビ)と調味料(しょうゆ、みそ、みりん)
和食を支える調味料として、しょうゆ(醤油)やみそ(味噌)、みりん(味醂)などを作るには、日本にしか存在しない、アスペルギルス・オリゼ(日本こうじカビ)が不可欠です。自然界にある何億種ものカビの中から抽出方法が発見されたのは約1000年前です。
このオリゼ(日本こうじカビ)菌は、もとフラブス菌の培養で毒性を抑えたカビを選び出し、日本独自に家畜化したものという。両者のDNAは全く同じであるが、フラブスの単細胞中には核が1個あるのに対し、オリゼには4個ほどあり、生命力が強いという。
平安時代、蒸したコメ(米)にツバキ(椿)の灰とオリゼ(こうじカビ)をふりかけ、オリゼの作った糖分を微生物の酵母(イースト)に食べさせ(発酵と熟成!)、みりん(混成酒)を作っていました。このとき、ツバキの灰をご飯にふりかけると、表面がアルカリ性となり、雑菌は生えず、こうじカビのみ生えるという。(延喜式、927年(延長5年)より)
これは樹木の中でもツバキの灰は、アルカリ性が強く、殺菌力がある、という。また、一般にツバキ科の植物は、葉に多くのアルミニウムを蓄積する性質があるので、ツバキの灰の中のアルミニウム成分も何らかの働きをしていると思われます。
室町時代、大豆にオリゼを働かせ、 しょうゆ(醤油)やみそ(味噌)が作られ、お盆には、四季折々の食材、コンブとシイタケのダシなどを使った精進料理が作られました。
このように、調味料の しょうゆ(醤油)やみそ(味噌)、みりん(味醂)などは、カビ(こうじカビ)と酵母(イースト)と細菌類などの3つの作用を受け製造されます。
NHKスペシャル 和食 千年の味のミステリー: http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20131215
〇 日本の食文化(郷土料理百選、北陸の郷土料理)
日本では、米を中心とした約1,500種類に及ぶ食材の料理や、出汁(だし)などのうま味を活用した料理、また、保存性、栄養価の高い発酵食品が作られてきました。
また、地方特有の郷土料理や行事食、自然の恵みに感謝する心、おもてなし、食事の作法など、日本独特の食文化を形成してきました。
農林水産省では、2007年(平成19年)12月、全国各地の農山漁村で脈々と受け継がれ、かつ「食べてみたい!食べさせたい!ふるさとの味」として、国民的に支持されうる郷土料理を「郷土料理百選」として選定しました。
北陸地方では、富山県では、「ます寿し、ぶり大根」、石川県では、「じぶ煮、かぶら寿し」、福井県では、「越前おろしそば、さばのへしこ」、などの郷土料理が選ばれました。
なお、じぶ煮の食材のカモ(鴨)は、今も、加賀市片野町のラムサール条約登録湿地、片野鴨池周辺では、江戸時代から伝わるカモ猟、坂網猟(さかあみりょう)により捕獲しています。
この方法は、夕暮れの時、池の周辺の高台に潜み、カモの群れが上空を通る瞬間に、長さ3.5mほどのY字形の網を投げ上げ捕まえます。(2014年11月16日(日)、北陸中日新聞朝刊より)
日本の食文化、郷土料理百選(農林水産省選定): http://www.location-research.co.jp/kyoudoryouri100/
和食は健康食であり、見た目にも美しいことから、今や海外の多くの国で一般的に知られ人気のある料理となっています。これを機会に、和食の標準化が行われ、政府や和食を提供する関係者が、広報や普及活動に一段と力を入れることが予想されます。
(参考文献) 樋口清之: 梅干しと日本刀(第7刷)、p.63~65、味の分類は、西洋四味、中国五味、日本六味、祥伝社(2005); 太田次郎、山崎和夫編: 高等学校 理科総合A(改訂版)、物質とエネルギー、p.88~89、啓林館(2005); NHK 夜9.15: NHKスペシャル、和食、千年の味のミステリー、2013年12月15日(日)放送; 奥村彪生(伝承料理研究家): 特別企画、和の食文化入門、p.48~54、PHP(No.788)、2014年、1月号(2013).
(参考資料) 微生物の利用、微生物と呼ばれるもの、細菌・酵母・カビなどによる発酵食品、医薬品などの生産、微生物電池、水素づくりへの応用、とは(2013.7.12): http://kanazawa-sakurada.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-30b2.html
(追加説明、話題)
〇 四條流包丁儀式
魚に手を触れずにさばく「四條流包丁儀式」が2017年6月4日、金沢市の尾山神社であった。厳かな雰囲気の中、華麗な包丁さばきが披露された。
四條流は平安時代に始まったとされる宮中の料理様式。四條流門人会金沢柏綱社中が主催。「金沢百万石まつり」の関連行事として行われた。
代表の清水綱雄さんが包丁人を務めた。右手に長包丁、左手に細長い箸をかまえ、まな板の上のタイを素早く切り分けた。神社拝殿には包丁の音が響き、訪れた見学者は迫力ある技巧にじっくりと見入っていた。

見事な包丁さばきが披露された儀式、金沢市の尾山神社で、2017.6.4
(北陸中日新聞(横井武昭): 漂う 気品と歴史、四條流包丁儀式、金沢柏綱社中、2017年6月5日(月)より)
〇 珍味かたどる逆三角 穴水で特産珍味、「くちこ」の生産最盛期 2019.2.27
ナマコの生殖巣を干物にした石川県能登地方の特産珍味「くちこ」の生産が、穴水町中居地区で最盛期を迎えている。

高級特産品「くちこ」作り、中居南、穴水町、鳳至郡、石川県 2019.2.27
主に日陰で7~10日間乾燥したら完成する。独特の味わいと絶妙な塩辛さを楽しめ、お酒のつまみに最適。一枚税込み5000円で販売し、石川、富山県の旅館や料亭、なじみの個人に卸している。くちこは七尾市石崎町でも盛んに生産されている。(北陸中日新聞、2019.2.27)